そして、次にウイスルの性質です。活性を失わせるには、
1)70%以上のエタノール
2)500ppm以上の塩素
3)80度30分(56度30分?)以上の温熱
となっています(新型コロナウイルス感染症に対する感染管理。2020年3月19日版)
https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2484-idsc/9310-2019-ncov-01.html
56度で30分の文献はこちら
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2666524720300033?via%3Dihub
同:日経メディカルの記事
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/report/t344/202004/565136.html?fbclid=IwAR0m9HYPGA2O3HjsuCkH6KM-DQ8aQlu16qEZCZ9AmJT_qWqXcgdqs3AgNWU
さて、1)と2)で処理すると、どうなるか?
前述の記事には、「表面にアルコールを塗布・スプレーしても、医療用マスクの内部で消毒作用を発揮しにくい。一方で、アルコールはマスク外層の防水構造を破壊する。」となってます。また、「アルコール処理を受けたマスクの材料は水(血液、唾液)を吸収しやすくなり、フィルターの効果の低下が加速」ということで、駄目ですね。塩素に関しても、フィルターの機能を落とします。
全文はこちら。
https://m.box.com/shared_item/https%3A%2F%2Fstanfordmedicine.box.com%2Fv%2Fcovid19-PPE-1-1
表の赤色部分、上がアルコール処理で、下が塩素系。フィルターの性能が、それぞれ56%と73%に低下したことを示してます。ここで、表の一番上、「70度Hot-Air」の欄をチョット注目しておいてください。フィルター性能、あんまり落ちてません。
その他、紫外線に関しては、「それは不可能だ。PPメルトブローンは熱可塑性高分子材料で、耐熱老化性が低く、紫外線に非常に敏感だ。紫外線照射を受けると、構造が破壊され酸化分解が生じ、ろ過の性能が大幅に低下する(普通のガーゼマスク並みになる)」だそうです。
さて、最後の3)温熱処理です。
医療機関では昔から「オートクレーブ」という温熱処理で滅菌してました。120~130度10分間とかです。これは、たしかに、ほぼ全ての病原微生物をせん滅できます。では、サージカルマスクはどうなるか?
フィルターが化繊です。フィルター材料の耐熱性は135度まであります。問題はフィルター機能です。ここも、前述の先生は、こう述べてます。
「蒸すにせよ煮洗いするにせよ、水が入ることでフィルターの電荷が急速に失われ、ろ過効果が大幅に低下することは間違いない。またPPメルトブローンは非常に細く、髪の毛の十数分の一ほどで、平均2ミクロン前後しかない。高温に弱く、温度が80度を上回ると収縮・変形を起こし、構造が破壊され、防護効果が低下する。」
やはり、洗ったり、蒸したりは駄目なようです。
ところで、ウイルスは80度30分で死にますよね。そして、80度以上は駄目。微妙です。ある報告では56度30とかもあります。なかなか、温度設定は難しいようです。
WHOは食品に関しては、以下のようなコメントを出してます。
http://www.nihs.go.jp/hse/food-info/microbial/2019-nCoV/2019-nCoVcfshk1.html
「3. 食品が十分に加熱されたことをどのように確認するか?
〇料理用温度計を使用し、食品の中心温度が75℃に達していることを確認することが望ましい。」
どうやら、75度でもOKですね。実際は、完全な滅菌が得られなくても、病原微生物を十分に減らせば問題ないということです。低温殺菌牛乳は、この方式です。
さて、80度以下はフィルター機能はどうなるか????
流石に、スタンフォード大学。実験してます。
https://www.n95decon.org/publications?fbclid=IwAR0cOsHIjZcGgtguyb5dqvzdU1aVaHiUqo44vqNQClGwTmXXEYG2I-kwQ18
左の表を見てください。下に拡大版PDFを載せます。
60度~75度30分で新型コロナウイルスは不活化。
N95マスク・・・60度湿度80%で5サイクル使える
N95マスク・・・65度湿度85%で1回リサイクル。
つまり、これが回答。
湿度管理は、困難なので、温度だけに注目し、60度~65度30分で処理すればいいわけです。
温度を上げすぎてはいけません。もう一つの表では70度Dry-Airとなってますから、多分70度まではOK。
温度設定が難しいのですが、初版は70度と書きました。75度でフィルターが大丈夫か???。データがありません。なので、
以下の温度設定は、フィルター機能を重視するかたは70度で行ってください。
多少フィルター機能を犠牲にしても滅菌を重視する方(サージカルマスク限定、N95は駄目かも)は75度で行ってください。
(最初の表の赤表示の下段、100度Cの蒸気でも、フィルター機能は結構維持(94.7%)されてますから、75度でも、そんなに落ちないでしょう)
この方法、どこかで聞いたことありませんか?。そう、低温殺菌牛乳の殺菌方法と同じです。完全な滅菌は無理としても、相当数までウイルスを減らせればOKとしましょう。
あとは、温熱処理の方法です。
我が家では、「保温調理器」を使用してます。こんなやつね。サーモスでは
温度特性は
なので、70度の物を入れても60度に温度が下がるまで2時間以上。
つまり、こいつで、
1)滅菌したいマスクを奇麗に伸ばして、個人ごとにジプロック(ポリ袋でも良い)に入れ、本などを載せて空気をしっかり抜く(濡れるとダメ、空気は断熱材、浮く。膨らむ)。
2)たっぷりの水を鍋に入れ、マスクを沈め、70度まで加熱。
3)保温容器に移す。
4)一時間放置。
(注:個人ごとにジプロックに入れるのは、汚れの処理が出来ないため。いくら滅菌されてても、他人の使ったマスクの再使用は嫌です。ジプロックごと、個人個人の専用にしてください。ジプロックに名前を書きましょう。)
これで、フィルター機能を、あまり落とさずに、ジプロックまるごと滅菌できます。
温度管理が重要なので、きちんと測定できる温度計(料理用)は用意してくださいね。
欠点は、汚れ、匂いは落ちませんから、個人別に分ける事。汚れは、内側(マスクと顔の間に挟む)に使い捨ての汚れ防止シートを挟んで対応しましょう。
これで、N95マスクなら5回、サージカルマスクでも結構な回数再生できるでしょう。
この方法を私は、読んで字のごとく
「保温調理器ジプロック湯煎方式」
と命名します。
貴重なサージカルマスク、N95マスクです。生産設備を増強しても、手に入りやすくなるには数か月かかるでしょう。手持ちのマスクを上手に再利用して凌ぐしか方法がありません。
知恵を出し合い、難局を乗り切りましょう。
この方法なら、簡単で、大掛かりな装置もいらず、小さな事業所でも、終業後10分程度の作業で実行できます(保温には火や電気を使わないので戸締りして帰れる)。翌朝、出勤したら、個人ごとに、滅菌したジプロックに入ったサージカルマスクが出来上がっていて、個人ごとに渡せます。
このブログの内容は、信頼できる公表された論文・データを元に、現時点で最も実行しやすい再利用法だと考えます。読んでいただいた皆さん、ご自由に案内していただいて構いません。ただ、この方法そのもので処理したサージカルマスクのフィルター性能を測定しているわけではありません。なので、すみませんが、実行後の責任は取れません。悪しからず。
追記:2020年4月9日
上記の「保温調理器」を用いた方法では、ジプロック10枚程度の処理ができそうです。ま、鍋の大きさ次第ですが。ただ、独身者や二人家族では、大きい鍋ではなくて、手持ちの「真空断熱マグ」のように、口が大きい魔法瓶構造のものでも、処理が可能でしょう(ジプロックを丸めて出し入れできればいい。)。この「真空断熱マグ」を使う提案は、当院の職員の提案です。より簡便になり、家庭での再滅菌が手軽になります。この場をお借りして、提案していただいた職員に感謝します。
写真は500mlタイプですが、物によっては350mlタイプでも可能かも知れません。ただ、メーカー発表の温度特性が見つからなかったので、実際に処理する前に70度Cのお湯を入れて、一時間放置後の湯温を測定してからにしてください。一時間後に60度C以上を保っていれば使用可能だと思います。
追記:2020年4月10日
500mlの保温水筒(ステンレス製の息子のお古、10年以上前の物なので、だいぶくたびれてるから写真は無しね)で実験しました。70度Cのお湯を8分目入れて、一時間放置。湯温は67度Cでした。結構優秀でビックリ。ジプロック一枚なら余裕。二枚も何とかなります。製品により保温性能が異なると思われますの、実測後使用してください。
追記:2020年4月12日
主に家庭や小規模事業所を中心に記載しましたが、業種によっては大量に再滅菌が必要な場面があるかもしれません(病院など)。その場合でも、70度C30分が公式滅菌法として記載されているので、温度管理が出来る大きな入れ物があれば、可能でしょう。アメリカでは、過酸化水素水蒸気を利用した再滅菌が行われているようですが、劇物(ロシア原潜クルクスの爆沈事故の原因物質・魚雷の燃料だったかな)なので、専用装置が無いと無理です。お手軽で考えれば、病院なら、FBフレンドより提案があった「保温機能付き配膳車」なんかが使えるかもしれませんね。勿論、温度ムラがあると不味いので、テストが必要でしょう。ま、それも簡単で、70度Cに十分予熱した配膳車の各所に、紙コップで70度Cのお湯を置き、一時間後に温度測定すればいいかと思います。まあ、そこは工夫次第でしょう。
追記:2020年4月13日
またまた、当院のスタッフさんからの提案です。ジプロックが入る密閉容器(タッパとか)と保冷保温容器でも良いのではないかと。そのとおりです。とにかく75度で30分が実現できれば良いのです。鍋を発泡スチロールのクールボックスに入れても大丈夫かも知れません。ただ、温度は測定してからにしてください。70度のお湯を居れ一時間後に60度以上が保ててれば、完全じゃないかもしれませんが、かなりの部分は滅菌できそうです。
発泡スチロールの耐熱性を調べたところ70度C〜90度C、経年劣化あり、製品により多少異なる、などの表記が有り、70度Cのお湯は、ギリギリかも知れません。容器が破損しても当方は責任持てませんので、あくまで自己責任でお願いします。
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